日本グライダークラブ 岡村 治彦
皆様の中には海外で飛行した際などに”BLIPMAP”というソアリング用の気象予報を利用されたことがあるかもしれません。これまで、日本国内を対象にした予報はなかったのですが、関東地方向けの予報サイトを試験的に開設しましたので、お知らせすると共に、使い方について解説します。
RASPはRegional Atmospheric Soaring Prediction 、BLIPMAP は Boundary Layer Information Prediction Mapを示します。日本語に訳すとRASPは地域の大気的なソアリング予報、BLIPMAP は境界層情報の予報地図というような意味になると思います。
RASP BLIPMAP はアメリカの気象学者でグライダーパイロットでもあるDr.John W. Glendening(Dr.Jack)が開発したもので、ソアリングに必要なサーマルの強さや高さ、雲のできかた、風の状況などの予報を地図上にプロットした情報が提供されます。よって、各種予報パラメタの地域的な傾向が分かり、クロスカントリーのルート決定などに役立つと思います。
BLIPMAPは各地域ごとにアメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、南アフリカなどのサイトで運用され、それぞれ予報が出されており、Dr.JackのWebサイトにリンク(http://www.drjack.info/RASP/index.html)があります。
BLIPMAP予報の作成方法を次に示します。
- NCEP(National Centers for Environmental Prediction:アメリカ海洋大気庁(NOAA)の中のアメリカ国立気象局(NWS)の一部門)から観測データを元にした初期データを取得します。
- WRF(Weather Research and Forecasting)モデルのオープンソフトウェアを用いて数値予報の計算をします。
- 数値計算で得られたデータから、サーマルの高さなどのパラメータの予報を行い、地図上にプロットします。
関東地方向けの予報サイトのURLはhttp://blipmap.glider.jpです。ここにアクセスすると、図1に示すページが表示されます。”BLIPMAP UniViewer” をクリックして図2に示す予報の選択画面(UniViewer)に進んでください。UniViewerの使い方を図3に示します。
- “Map Size”で地図の大きさを選択します。-15%~+15%をクリックするとその度に地図が縮小・拡大されます。
- “Popups”でBLIPSPOT,SkewTを使用するかを設定します。BLIPSPOTにチェックを付けておくと、地図上をクリックすることによりその地点の数値データが別画面に表示されます。また、SkewTにチェックを付けておくと、地図上をクリックすることによりその地点のエマグラムが別画面に表示されます。
- “Run”で日を選択します。“Previous”は前日、“Current”が当日(次の昼間)です。“Current+1”はCurrentの翌日、“Current+2”はCurrentの翌々日です。なお、現在の予報スケジュールでは、計算が終了し予報が更新される時刻(JST)は大体次のようになります。
- “Current”の予報は前日21:00ごろ、当日05:30ごろと当日09:00ごろ
- “Current+1”の予報は前々日21:30ごろと前日06:00ごろ
- “Current+2”の予報は前々々日22:00ごろと前々日06:30ごろ
- “Grid”で荒いグリッド(6Km)か細かいグリッド(2Km)かを選択します。細かいグリッドの予報は計算に時間がかかりますので、当日の11:00JST~16:00JSTしかありません。
- ”Time”で時刻を選択します。
- ”Parameter”で表示したいパラメータを選択します。
地図上には各滑空場の大まかな位置が表示されています。滑空場名の文字列の左端(ドットの左)が位置を示します。
図1 先頭画面
図2 UniViewer
図3 Univewerの使い方
以下にDr.Jackがソアリングに有効だといっている基本的パラメータ(サーマル、雲、風についてのパラメータ)を示します。その他を含めパラメータの詳しい説明(英語)は http://www.drjack.info/RASP/INFO/parameters.html をご覧ください。
(1)Thermal Updraft Velocity(W*)
サーマルの強さです。例として2013年4月22日の予報を図4に示します。上空に寒気が残り良いコンディションが期待できる予報になっています。
図4 Thermal Updraft Velocity(W*)の例
(2)Buoyancy/Shear Ratio
サーマルの浮力とウインドシアーの比です。この比が小さいとサーマルがウィンドシアーで分断されたりして上昇しにくくなるといわれています。
(3)Height of Critical Updraft Strength(Hcrit)
利用できそうな(225fpm[1.143m/s]以上の)サーマルの高さ(MSL)です。例として2013年4月22日の予報を図5に示します。
図5 Height of Critical Updraft Strength(Hcrit)の例
(4)Cu Cloudbase where Cu Potential>0
積雲の雲底高度(MSL)です。例として2013年4月22日の予報を図6に示します。
図6 Cu Cloudbase where Cu Potential>0の例
(5)Overcast Development Cloudbase where OD Potential>0
オーバーキャストした(広がった)雲の雲底高度(MSL)です。
(6)BL Avg. Wind
Boundary Layerの平均風速です。例として2013年4月22日の予報を図7に示します。パラメータで“Height”は平均海面(MSL)からの高さを、“Depth”は地表面からの高さ(AGL)を表します。
図7 BL Avg. Windの例
(1)BL Top Height
境界層の高さ(MSL)であり、対流がどこまで上がっているかを示します。経験からいってこのあたりの高度までグライダーで上昇できることが多いようです。例として2013年4月22日の予報を図8に示します。
図8 Height of BL Topの例
(2)各地のエマグラム(Sounding)
関東地方の滑空場におけるエマグラム(風などの情報も含む)の予報も見ることができます。例として2013年4月22日の板倉滑空場の予報を図9に示します。
図9 板倉滑空場のエマグラムの例
コンバージェンスはパラメータ“BL Max.Up/Down Motion”を参照してください。このパラメータは境界層中での最大の上昇・下降の予報で、コンバージェンスによる上昇がある場合はその場所が分かります。また、パラメータ“Sfc. Wind”(地上風)の予報を見れば、風の収束している場所が分かり、上昇風帯ができそうなことが分かります。地上風が収束していると思われる場所と、パラメータ“BL Max.Up/Down Motion”で上昇となっている場所は大体一致しているようです。図10と図11に2012年12月24日の予報を示します。この日は私もフライトしましたが、板倉滑空場の北にコンバージェンスによる上昇風帯がありました。
図10 コンバージェンスによる上昇帯の例
図11 コンバージェンス発生時の地上風の例
ウェーブについてはパラメータ“Vert Velocity@850mb”、“Vert Velocity@700mb”、“Vert Velocity@500mb“を参照してください。それぞれ850hPa(1500m付近)、700hPa(3000m付近)、500hPa(5700m付近)の上昇・下降の予報です。図12に2013年2月23日の予報を示します。この日は板倉滑空場付近の上空でもウェーブで上昇できたようです。
ウェーブは現象の規模が小さいので、荒いグリッドではあまりうまく予報が出ません。当日の予報しかありませんが細かいグリッド(2Km)の予報を見てください。
図12 700hPa(3000m付近)の上昇・下降の例
今後の展開として、予報マップが見やすくなるよう、Google Map上への重畳表示などの開発ができたらと思っています。
ご質問などありましたら、日本グライダークラブまでお問い合わせください。
iphone 用アプリがあります。下記からダウンロード可能です。ご利用ください。
RASP アプリ作者のページです。ベルギーのグライダーパイロットの方が作ってくださってます。
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